『SAVE』には様々な小物が登場し、それぞれ重要な役割を担っていますが
一番最初に登場するのがユッカ・ロストラータという植物です。

なぜ導入したのか?
物語のキーとして、主人公の**「極めて緻密な計算を好む性格」**を説明する必要がありました。
そのため、カメラ、シンセサイザー、コーヒーという趣味を設定しました。
これらは、突き詰めていけば、知識や技術、数値によってある程度コントロールできるものです。
そして、物語を展開させるうえで、それらとは対照的な、
「主人公には扱いきれないもの」
を登場させる必要がありました。
AIに頼るきっかけが必要だったからです。
そこで、まず最初に浮かんだのが「生物」でした。
人間の思い通りにはならないもの。
どれだけ調べても、計算だけでは完全に答えを出せないもの。
その中から、実際に作者も育てているユッカ・ロストラータを抜擢したわけです。
ロストラータには思わぬ副産物があった
軽い気持ちで導入したユッカ・ロストラータですが、物語を創るうえで、思わぬ副産物があることに気付きました。
それは、あの独特な造形です。
ロストラータの幹を覆っている特徴的な模様。
実はこれ、葉が落ちたり、葉を切ったりした跡です。
つまり、あの美しい幹の模様は、植物が生きてきた過程で残された傷の跡でもあります。
傷ついた跡が積み重なって、あの造形を作っている。
そう考えると、とても不思議な植物です。
そして、それが『SAVE』の登場人物たちと、妙に重なって見えることに気付きました。
人も、生きていれば傷つきます。
失うこともある。
忘れられない記憶を抱えることもある。
けれど、その傷や経験が、その人にしかないものを作っていく。
傷が、その人の美しさを作ることもある。
最初は何気なく登場させた植物でした。
ところが、物語を創っていくうちに、ユッカ・ロストラータそのものが、主人公とセラの二人を象徴するような存在に見えてきました。
これは、最初から計算していたわけではありません。
作者自身が、後から気付いたことです。
ただし矛盾もある
ただ、このロストラータ、ものすごく成長が遅い植物です。
物語内では、主人公がこのロストラータを迎え入れてから、数週で下葉をカットするシーンがあります。
ですが、現実のロストラータを育てている身としては、
「たぶん、その期間ではそんなに葉は落ちないよな……」
というのが正直なところです。
恐らく、そこまで短期間で下葉をカットする必要はありません。
ここは作者が無茶してます。
ごめんなさい。
物語の都合を、植物の成長速度より優先してしまいました。
でもやっぱり正解だった
それでも、計算では扱いきれない存在として、この植物を導入したのは正解だったと思っています。
主人公にとって、カメラもシンセサイザーも、ある意味では「理解することで扱えるもの」です。
一方、ユッカ・ロストラータは違う。
水を与えたからといって、思った通りに育つわけではない。
環境を整えたからといって、完全にコントロールできるわけでもない。
ただ、そこに生きている。
主人公とセラが言葉を交わし、笑い、悩み、そして傷ついていく姿を、窓辺から静かに見つめている。
そんな存在です。
特に登場回数が多いわけではありません。
物語を直接動かす重要なアイテムでもありません。
それでも私は、この植物が『SAVE』の中にいることに、とても大きな意味があると思っています。
計算できないもの。
思い通りにならないもの。
そして、傷を残しながら、それでも時間の中で姿を変えていくもの。
ユッカ・ロストラータは、そんな『SAVE』の世界を、何も語らずに表現している小物なのかもしれません。
