『SAVE』に登場する小物 カメラ
『SAVE』には様々な小物が登場します。
前回は、主人公が毎日のように淹れているコーヒーについて書きました。
実を言うと、コーヒーは最初から登場させる予定だったものではありません。
物語を作っている途中でAIに相談したところ、「この主人公ならコーヒーも好きなんじゃないか」と提案され、「ああ。こいつ、絶対やるわ」と採用したものです。
今回は逆のパターンで採用したカメラです。

カメラは、『SAVE』の主人公を考え始めたかなり早い段階から、趣味として設定していました。
主人公が使っているのは、PENTAX K-1。レンズはFA31mm Limitedです。

なぜこの組み合わせなのか。
一番簡単な答えは、作者が実際に使っているからです。
ただ、このカメラについてはそれだけではありません。
そもそも『SAVE』という物語そのものを思いついたとき、作者はこのK-1と31mm Limitedを使って写真を撮っていました。
場所は、忍野八海です。
主人公とカメラ
前回のコーヒーの記事でも書きましたが、『SAVE』の主人公は、極めて緻密な計算を好む人物として設定しています。
もっと簡単に言ってしまえば、最適解フェチです。
何かをするとき、なんとなく感覚だけで済ませるのではなく、条件を考え、数字を使い、自分なりの最適解を探そうとする。
そんな主人公の趣味として、かなり早い段階から設定していたのがカメラとシンセサイザーでした。
カメラには、絞り、シャッタースピード、ISO感度、焦点距離など、たくさんの数字があります。
同じ場所で同じものを撮っても、その設定を変えれば出来上がる写真は変わります。
絞りを変えてみる。撮ってみる。シャッタースピードを変えてみる。また撮ってみる。
写真そのものは感性の世界なのに、それを作る道具には数字と理屈が山ほど詰まっている。
「ああ。こいつ、絶対カメラ好きだわ」
ということで、こちらはコーヒーと違って、ほとんど迷うことなく主人公の趣味になりました。
そもそも、なぜPENTAXなのか
ここまで書くと、作者もカメラについていろいろ考えた末にPENTAXへたどり着いたように見えるかもしれません。
メーカーごとの設計思想を比較したとか、レンズの描写を研究したとか、そんな風に見えるかもしれません。
全然違います。
オレンジ色が好きだったからです(笑)。
PENTAXには、ボディカラーを選べるカメラがありました。
始まりは、本当にそれだけです。
一時期、こんなことになっていました。

始まりはただ……オレンジ色です。
人生、何がきっかけになるか分かりません。
もちろん、その後も色だけを理由に使い続けていたわけではありません。
実際に使っていくうちにPENTAXのカメラやレンズが好きになり、やがてフルサイズのK-1とFA31mm Limitedを使うようになりました。
そして、その組み合わせが『SAVE』の主人公にも、そのまま引き継がれることになります。
「確実な写り」より「エモい写り」
主人公のカメラをK-1にしたのは、自分が使っているからという理由が一番大きいのですが、『SAVE』にはこのカメラが似合うとも思いました。
これはカメラとしての性能や、他メーカーとの優劣の話ではありません。あくまで作者自身が使っていて感じていることです。
作者がK-1と31mm Limitedに求めているのは、**「確実な写り」より「エモい写り」**です。
もちろん、毎回そんな写真が撮れるわけではありません。
普通の写真も大量に撮れます(笑)。
それでも、ときどき自分で撮ったのに「なんでこれ、こんな感じに写ったんだろう」と思うような一枚が出てくる。
光なのか、色なのか、ボケなのか。きちんと分析すれば理由はあるのでしょうが、それより先に「なんか、これいいな」と思ってしまう写真があります。
完璧に撮れた写真が、必ずしも一番好きな写真になるわけではありません。
少し暗かったり、思っていたのとは違う光が入っていたりしても、なぜか消したくない。
作者にとってK-1と31mm Limitedは、そういう写真が撮れる組み合わせです。
主人公は最適解を求める人物なのに、その主人公に持たせたカメラを作者自身が使っている理由は、突き詰めると**「なんか、この写りが好きだから」**だったりします。
そのあたりも、今になって考えると少し面白いところです。
31mmという微妙な数字
K-1に組み合わせているレンズが、FA31mm Limitedです。
31mm。
35mmでもなければ、28mmでもありません。
なんとも微妙な数字です。
でも、作者はこの31mmという画角がかなり好きです。広すぎず、狭すぎない。風景も撮れるし、人も撮れる。被写体に寄ることもできれば、その人がいる場所まで一緒に写すこともできます。
何かひとつを切り取るというより、その場にある空気まで一緒に残せる。
少なくとも作者自身は、そんな感覚で使っています。
もちろん、これも最初からそんな理屈を考えて31mmを買ったわけではありません。
使っているうちに好きになりました。
この辺り、作者は主人公ほど最適解を求めていません(笑)。
忍野八海でPLフィルターを覗いた
そして、このK-1と31mm Limitedには、『SAVE』にとってもうひとつ大きな意味があります。
ある日、作者は忍野八海で写真を撮っていました。
撮っていたのは、水面です。
K-1に31mm Limitedを付け、その先にはPLフィルターを装着していました。
PLフィルターについては次の記事で詳しく書こうと思いますが、簡単に言えば、光の反射をコントロールするためのフィルターです。
水面を見ながらPLフィルターを回していると、反射の状態が変わります。さっきまで水面に映り込んでいたものが消え、その向こう側が見えてくる。
実際にあるものは何も変わっていません。
同じ忍野八海の水面です。
それなのに、PLフィルターを回しただけで、まるで違うものを見ているように感じた。
そのとき、ふと思いました。
「別の世界だ。これ、物語で別世界を繋ぐ接点として使えるな」
これが、『SAVE』の始まりです。
もちろん、その瞬間に今の『SAVE』が頭の中に出来上がったわけではありません。セラもAZURAPHも、今のような形ではまだ存在していませんでした。
最初にあったのは、もっと単純な発想です。
同じ場所に、違う世界が重なっている。
普段は見えないけれど、何かを介することで、もうひとつの世界が見える。
そこから少しずつ考えていったものが、やがて『SAVE』になりました。
つまり、『SAVE』という物語の始まりを順番にたどっていくと、
オレンジ色が好きだったからPENTAXを買った。
その後、PENTAXが好きになってK-1と31mm Limitedを使うようになった。
それを持って忍野八海へ行った。
水面を撮るためにPLフィルターを覗いた。
そして、
「別の世界だ」
と思った。
……ということになります。
そう考えると、『SAVE』の一番最初まで遡ったら、ロイヤルブルーではなくオレンジ色かもしれません(笑)。
実は、松田もK-1を使っている
ここからは、『SAVE』を最後まで読んだ方に向けた話になります。
本編では特に触れていませんが、実は松田が使っているカメラもPENTAX K-1です。
そして、松田のお気に入りのレンズもFA31mm Limitedです。
主人公と松田が、偶然同じカメラとレンズを使っているわけではありません。
『SAVE』の主人公には、松田の記憶があります。
つまり、主人公の中にあるカメラについての記憶も、もともとは松田のものです。
K-1を使うこと。
31mm Limitedを気に入っていること。
写真を撮ること。
主人公にとっては、それらもごく自然な「自分の趣味」だったはずです。
でも、実際にはその記憶の始まりは松田にある。
これは本編ではあえて説明しませんでした。物語を進めるうえで必要な情報ではありませんし、主人公と松田が同じカメラを使っていることをわざわざ書けば、それ自体が余計なヒントになってしまいます。
ただ、作者の中ではちゃんと繋がっています。
そして、こうして小物について改めて考えてみると、意外と『SAVE』らしい設定だったようにも思います。
その「好き」は誰のものなのか
主人公はカメラが好きです。
K-1が好きで、31mm Limitedが好きで、写真を撮ることが好きだった。
でも、その「好き」の始まりにあるのは、松田の記憶です。
では、それは主人公自身の「好き」ではないのでしょうか。
誰かの記憶から生まれた感情なら、それは偽物なのでしょうか。
この辺りは、作者にも明確な答えがあるわけではありません。
ただ、最初のきっかけが誰かから与えられたものだったとしても、今その人が本当に好きだと感じているのなら、それはもう、その人自身の「好き」なんじゃないか。
作者自身は、そんな気もしています。
考えてみれば、これはカメラに限った話ではありません。
自分が好きなもの。
大切にしているもの。
なぜか落ち着くもの。
そのすべてについて、「なぜ好きなのか」を完全に説明できる人は、たぶんそんなにいません。
主人公の場合は、その根っこに他人の記憶があった。
だからこそ、**「それでも、今感じている気持ちは誰のものなのか」**という問題が出てきます。
『SAVE』で描きたかったもののひとつも、結局そこに繋がっているのだと思います。
このカメラから『SAVE』は始まった
前回紹介したコーヒーは、物語を書いている途中で加わった小物でした。
カメラは違います。
主人公の性格を作るかなり早い段階から存在していて、それどころか『SAVE』という物語そのものが生まれる前から、作者の手元にありました。
PENTAX K-1。
FA31mm Limited。
そして、PLフィルター。
忍野八海で水面を撮りながら、そのフィルターを覗いたことで、いつもの景色が別の世界のように見えた。
「これ、物語で別世界を繋ぐ接点として使えるな」
そこから『SAVE』は始まりました。
主人公にとってカメラは、数字や条件を変えながら自分なりの最適解を探すことのできる、とても彼らしい趣味です。
でも、そのカメラを好きだと思う記憶は、もともとは松田のものだった。
一方、その設定を作った作者がPENTAXを使い始めた理由は、突き詰めればオレンジ色が好きだったから。
なんだか、かなり行き当たりばったりです。
でも、その行き当たりばったりの先でK-1を持って忍野八海へ行き、PLフィルターを覗かなければ、『SAVE』は生まれていなかったかもしれません。
そう考えると、このPENTAX K-1とFA31mm Limitedは、『SAVE』に登場する数ある小物の中でも、作者にとっては少し特別な存在です。
物語の中に登場するカメラであり、その物語が生まれる瞬間を、実際に作者と一緒に見ていたカメラでもあります。
